蚕と桑の不思議な関係③
周桑物語

自然界でも蚕のほかに桑の葉を好んで食べる虫を見たことがありません。
「エリサン」とか「ヨトウガ」という蛾の仲間は、多くの種類の葉を食べることのできる幼虫として知られていますが、それらに桑の葉をやっても噛むまではいきますが、食べ進むことはありません。
それには驚きの事実があったのです。
桑の葉を枝からもぎ取ると乳液が滲み出てきます。その乳液を調べてみると、アルカロイドという物質が検出されます。
このアルカロイドは、桑の葉に豊富なショ糖をブドウ糖と果糖に分解する分解酵素を働かなくする作用があります。
それならと桑の葉に含まれるブドウ糖を原料にトレハロースを合成して血糖として各細胞に届けて、そのトレハロースを細胞内で分解してエネルギー生産活動を行うためのブドウ糖を得ようと試みますが、その際のトレハロース分解酵素さえも働かなくさせる作用があります。
そのことで、ショ糖由来のブドウ糖の供給が低下しかつ、さらにはトレハロース由来のブドウ糖も生成できないため、唯一のエネルギー源であるブドウ糖の供給が途絶えることになるのです。
このことから、アルカロイドは昆虫にとって猛毒であるといえます。では、なぜこのような毒性を持つ桑の葉を食べる蚕は平気なのでしょうか。
その答えは、蚕だけがアルカロイドの毒性作用に耐えうる分解酵素を持っているからなのです。
蚕が進化の途中で獲得した能力なのでしょう。そのことで桑の葉を独占することができているのです。
キアゲハはパセリ、アゲハは柑橘類の葉そして蚕は桑の葉というように、この食糧寡占状態は昆虫界の食糧競合を抑えて、互いにセーフティーネットを作り出しているようにも感じられます。
昆虫が進化で獲得した相互関係を考察することで、私たち人間のより良い社会システムも思いつくかもしれません。